知床の入植の歴史は1914年にまでさかのぼります。開拓の時代は1973年まで続き、開拓された土地は開拓跡地として残されました。その後、乱開発の危機に直面し、開拓跡地を守るために全国から寄付金を募り「しれとこ100平方メートル運動」が始まりました。現在は土地の買取が終了し、それら開拓跡地にかつてあった豊かな森を復元する森づくりが進められています。
運動が始まってから今に至るまで、約16万本のアカエゾマツが植樹されました。当初はアカエゾマツとともに広葉樹も植樹されましたが、1980年代から増えだしたエゾシカにより広葉樹は食べられ、エゾシカが好まないアカエゾマツだけが残っていきました。その結果、現在はアカエゾマツの森が運動地の各所に点在する状態になっています。アカエゾマツだけの単一の森は生き物が住みづらい環境でもあります。
現在、アカエゾマツの森を活かしながら樹種多様な森を育てる取り組みが始まっています。まずは林床に光が届くスペースを創り出すために、私たちは定期的な枝払いや間伐を行っています。
実は、森づくりで木を切っているのです。
さらに、ここ数年は重機を使って大規模な「ギャップ=空間」をつくり、他の幼木の成長や種子の発芽を促進させる取り組みも行っています。周辺に広葉樹がない場合は自然に種子が飛んでくることが期待できないため、「ギャップ」の中に広葉樹の苗を人の手によって移植しています。
知床の森づくりの作業はボランティアの存在なくして語ることはできません。全国から集まっていただくボランティアの皆さんの中には20年以上森づくりに携わっている方もいて、私たちが逆に森づくりに関するノウハウを教わることもあるほどです。しかしボランティアの高齢化も同時に進んでおり、若い世代の人材発掘と熟練の技術を後世に伝えていくことも私たちの大切な使命です。
森が育つ長い年月の中で私たち人間が携われるのはほんの一瞬に過ぎません。アカエゾマツを間伐し、その間に植えた広葉樹が育ち、樹種多様な森になるのは何十年、何百年先のことになるでしょう。いつかかつて知床にあった豊かな森になることを目指して、日々の森づくりを積み重ね、未来へつないでいくのが私たちの使命です。
私たちは、知床で自然を「知り・守り・伝える」活動をしています。
これらの活動は知床を愛する多くのサポーターの皆様に支えられ、今後も支援を必要としています。