ヒグマと生きる未来を考えるプロジェクト(2011年~2015年)
「知床の人とヒグマの共存事業」とは?
知床が世界自然遺産になった理由の一つは生き物たちの「食べる・食べられる」の関係が海から川、そして森へと続いているからです。サケ・マスなど海の幸を食べるヒグマは、実は世界の宝として認められた知床の特異な生態系を支える重要な役割を担っており、知床にはなくてはならない生き物です。
一方、ヒグマは人を見たらすぐ襲ってくる動物ではありませんが、人が対処法を誤ると重大な事故につながる可能性もあり、ある意味厄介な動物です。知床は人間とヒグマが出会う確率の非常に高い所で、事実、2012年は約2,100件の目撃情報があり、ヒグマが市街地に侵入してくる事例も多くありました。
人もヒグマも安心・安全に暮らせるようにするためにはいったいどうすればよいのか…それに対する答えを試行錯誤しながら見つけていくことは知床に暮らす私たちに課せられた永遠のテーマなのです。
ダイキン工業株式会社様からのご支援をいただきながら、知床に住む人とヒグマとの軋轢を軽減させるための取り組みが始まっています。このプロジェクトでは知床財団が現地業務を担い、1)ヒグマの行動や血縁関係などについての調査、と2)羅臼町住民生活地域へのヒグマの侵入を防止する電気柵の設置、の2つの事業を並行して行っています。
ダイキン工業株式会社様のホームページにもこのプロジェクトが掲載されています。
http://www.daikin.co.jp/csr/shiretoko/index.html
1)ヒグマの行動や血縁関係などについての調査
知らないヒトが、いつもあなたの家の芝生を平然と横切っているとしたら、あなたはどうしますか?しかもそのヒト、デカくて毛深い上に日本語がわからないみたい…。こんな場合はまず、そのヒトがどんなヒトで、何を目的に、どこからやってくるのかを調べますよね。それらがわかれば有効な不法侵入防止策が見つかるかもしれません。
人の存在を気にせず人の生活圏に頻繁に出入りするような問題グマがどのような環境で育ち、どこからやってくるのかがわかれば、より有効で効率的な事前の策を打つことが可能となります。このプロジェクトでは、ヒグマの外的特徴や遺伝子分析による個体識別や、GPS内蔵の首輪装着などを通して、ヒグマの年周行動や移動分散、血縁構造などを調べ、人とヒグマのトラブルを軽減するために必要な対策を練る際に、「その対象となるエリアの範囲がどこなのか?」が明らかになっていくことが期待されています。
*バイオプシとは特殊な針を用いて組織の一部を採取して行う検査方法のこと
2)羅臼町住民生活地域へのヒグマの侵入を防止する電気柵の設置
ちょっとアブナイそのヒトのことを調べるにしてもそれはそれなりに長い時間が必要です。侵入を防ぐ応急処置として家の敷地の周りに柵を作るのは一つの有効手段です。1)の調査が進めば、「敷地全周に柵を設置しなければならないのか、ある特定部分だけでよいのか」、「いつどんな種類の柵をどのように設置すれば効果的なのか」、といった問題が明らかになるかもしれません。または柵とは全く違ったトラブル防止策が考え出される可能性もあります。
知床半島の東側半分を占める羅臼町では、海岸に沿って細長く点在する住民の居住区とヒグマが頻繁に利用する山林との境界に電気の通っている柵を設け、ヒグマが人間の生活圏に入りづらくするプロジェクトが進められています。羅臼町が主体となり、私たち知床財団が現場の実動を担う形で、まずは柵の種類や設置場所、設置方法などの検討から始め、順次設置を進めています。
この5カ年の成果はコチラ↓
知床の人とヒグマの共存事業 報告書(抜粋)