ルサ
ルサとはどのような場所か
「ルサってどのような意味ですか」。施設でお客様によくたずねられる質問のひとつだ。ルサはアイヌ語で「ル・エ・シャニ」、道が・そこから・浜へ出ていく所が語源である。知床半島の主峰羅臼岳と半島先端部に位置する知床岳の間、海に至る2つの河川の広がりをあらわしている。標高1000mをこえる屏風のように海に突き出した知床で、ルサは標高240mの低い鞍部になっている。ここルサは、風が集まり吹き出す「風の通り道」であり、アイヌはこの川を東西に伝い、「道」として半島を行き来していたという。
のちにルエシャニはルシャと名を変え、斜里側は「ルシャ」、羅臼側は「ルサ」となった。与えられた厳しい環境、この地に生きてきた人々の姿を示すその言葉を携え、ルサフィールドハウスは2009年に開館した。
役割は大きく2つ
①先端部への入り口
知床半島の核心部とされる「先端部地区」、整備された道のないエリアの深い魅力とその楽しみ方、安全管理や環境保全への対策や具体的な方法を紹介する。伝えることは難しい。現場に足を運び、レクチャーのリアリティは経験から導く。
②地域の人々の憩いの場
サケやマス、コンブなど、海に身を置き発展してきた町、羅臼。施設周辺はすべて番屋で夏期には家族総出の昆布漁が営まれている。親子や三世代で散歩がてらの寄り道もしばしばで町民が気やすく集う空間作りを心掛けている。
知床財団の「ルサ構想」とは?
ルサフィールドハウスのあるルサ川河口周辺は、この知床の中でも特に自然の奥深さを感じてもらえる場所です。知床羅臼の豊かな海とそこに流れ込むルサ川は、人工的なダムのない自然河川で、カラフトマスやシロザケが遡上します。そして、ヒグマやシマフクロウが訪れ、冬にはオジロワシやオオワシが舞います。世界自然遺産地域の羅臼側の入口であり、先端部地区へのゲートでもあるルサを、バックカントリーを目指す人たちばかりでなく、一般の観光客にも是非訪れたいと思ってもらえるような、そして地元の人々にも愛される魅力的な場所にしていくためにはどうしたらいいのか。それを考えるのが、知床財団のルサ構想です。
これまでのルサ構想では、担当者が語り合いながら何度も何度も絵を描きなおして、検討を重ね、また、職員でチームを作りそれぞれが今後のルサ構想を作成し、対戦形式で発表をしたこともあります。
その構想の中には、ヒグマを観察できる施設の整備やキャンプ場の整備、ルサ│相泊間のシャトルバスの運行、カフェや夜間のイベントなどたくさんのアイディアが生まれていきました。
まずはできることから始めよう!
このように知床財団内では未来のルサ像に思いを馳せ、様々な計画が語られてきたのですが、それらを具体化するのは行政側との調整も必要で、実現にはまだ時間がかかりそうです。そこで私たちができることから少しずつ取り組んでいくことになりました。
その1 ルサカフェ
その第1弾が2015年から始めた「ルサカフェ」です。ルサ構想の計画を具現化していくためには、まず多くの人にとってこの場所が憩いの場所となってほしい。そんな思いでカフェがはじまりました。初年度は期間限定で年1回でしたが、翌年には年2回になり、昨年はついに夜間延長開館を行い「夜のルサカフェ」も実現しました。おいしいコーヒーと軽食やスイーツを提供し、回を重ねるごとに地域の方々にも楽しみにしていただけるようになってきました。
その2 森づくりとイベントの実施
第2弾は「森づくり」です。ルサフィールドハウスの裏手の土地はルサ特有の冬の強風と増え過ぎたエゾシカの食害により稚樹が大きく育つことができないでいます。そこで自立式の防雪防風防鹿柵を設置し自然に生育している稚樹の成長を助ける、という事業を立ち上げました。知床財団自然復元係の全面協力を得て、2017年秋までに総延長約40メートルの柵を作りました。
また、この柵の中の稚樹の生育を見守ろうと、町民向けのイベント「僕と私とルサの小さい木」を2017年10月に実施しました。参加者には各自「自分の木」を選んでいただき、その木をスケッチして今後どのように成長していくのかモニタリングするというものです。
羅臼町在住 辻中さんのルサへの思い
ルサ川河口付近には、昔は灌木林と湿地があったんだ。そこを人間の都合で土砂捨て場として使ってしまった。でも、今思えばルサ川はものすごい貴重な川だったんだと思う。その場所が自然の力で再生していくための少しばかりのお手伝いができればと思い、そんな思いから森づくりの事業に寄付をしたんだ。
ルサは今この時代に、自然と人間が一体になって、でも不自然さを感じない場所。世界遺産にもなった知床で人間も自然の一部であり、人の生活もその中で織りなされてきたということを多くの人に感じてもらえる、そんな場所になってほしいと思ってるよ。
これからのルサ
まるで知床の魅力を凝縮したような地である「ルサ」には、これからも大きな可能性があります。ルサフィールドハウスを核とした構想を練り続けながら、同時に、私たちにできることを一つ一つ実行・継続していきたいと思っています。
2017年、「僕と私とルサの小さい木」で子供たちと観察した稚樹は、まだまだ子供たちよりもずっと小さな木ばかりです。けれど数年後には子供たちと同じくらいに成長した「僕と私とルサの中くらいの木」を見るイベントを企画したいと思っています。そして彼らが大人になったころ、「僕と私とルサの大きい木」というイベントを彼らの子供たちと一緒にやってみたいという夢があります。
ここルサという場所でこれから取り組んでいく課題とこの小さな木たちの成長を地域のみんなで一緒に見守り実現して行くことが私たちの理想です。
文- 稲葉 可奈 羅臼地区事業係 / 坂部 皆子 羅臼地区事業係長