企業支援の軌跡-ダイキン工業と歩んだ10年-
知床財団は2011年に斜里町、羅臼町、そしてダイキン工業株式会社(本社:大阪)と4者協定を結び、森づくりなど知床の保全活動の一部に共に取り組んできました。その支援は2021年度で10年目を迎え、総額は1億3千万円となりました。
ダイキン工業からの支援は寄付だけではなく、社内の公募によって毎回集まる社員ボランティア活動でもご協力いただいており、こちらも10年目の節目を迎えています。
10月にはこれまでの事業の報告会を行い、関係者間でその成果を共有しました。その内容の一部をここに紹介させていただきます。
知床の森づくり防鹿柵の設置
20年以上続く知床の森づくりの歴史の中で最も苦労してきたのは、シカとの闘いです。ダイキン工業との森づくりも、岩尾別川沿いで防鹿柵を作ることから始まりました。柵の中に河畔林の代表選手、カツラの稚樹を植え、木々が成長するまでシカが入り込めない高さの柵で守り、河畔林の育成を試みています。
2011~2015年の5年間で設置した柵の総延長は1231メートル、面積にして約2ヘクタールに及びます。
河川環境の改善魚道整備
森づくりの計画の中では「生物相の復元」という項目が目標の一つに掲げられています。知床の森づくりでは、単純に木を植えるのではなく、多様な生物が暮らすことのできる森を目指しています。
例えば、魚が本来遡上する川の上流部まで支障なく上がれるように、魚道を人為的に整備する取り組みも行っています。かつてのように魚が川の上流にも生息するようになれば、その魚たちは森の奥に暮らすシマフクロウなどのエサ資源にもなると考えています。
ヒグマと人を守る街づくり
羅臼町では、ヒグマと人の軋轢を避けるため、市街地エリアと海沿いの漁業活動エリアを中心に総計約7㎞の電気柵を設置しました。ヒグマはいわば知床の森の象徴的な生き物で、知床の土地を上手に利用しながら暮らしています。そしてそのすぐ側で生活する人の安全も守るため、このプロジェクトが稼働しています。
しかし、電気柵は設置そのものや維持管理に大変なコストと時間がかかり、細く長い羅臼町すべての地域への導入は現実的ではありません。そこで2019年度からは地域住民とともにフキなど背丈の高い藪の刈り払いを行い、住宅街のまわりの見通しを良くしてヒグマが隠れたり餌場にしたりしないように、人にとってもヒグマにとってもよい結果となるような街づくりを目指しました。
10年間で築かれたもの
ダイキン工業と知床のお付き合いが始まって10年経った今、築き上げられた大きな成果といえるのは「知床の仲間」ができたことです。当初から続いているダイキン工業社員による知床ボランティアは計18回、延べ参加人数で196人となりました。
ボランティアに参加した職員の方々が自宅や会社に戻ったあと、知床の自然や森づくり、電気柵やヒグマと人のことをまわりに伝えてくれ、興味関心をもつ人たちのすそ野をじわじわと拡げてくれています。これは単に現地での労力の提供だけではない、大きな力となって私たちを後押してくれています。ダイキン工業との10年間の賜物は、まさにボランティアによって築き上げれた仲間たちだと言い切っても過言ではありません。
次世代へ
知床は寒冷で風も強く、厳しい環境下のために木1本が成長するのにとても時間がかかります。そのため、現場では50年先、100年先、200年先の森をイメージしながら森づくりを続けています。それだけの長い年月をかけて自然保全活動を続けていくには、次の世代へと森づくりにかける思い、その意義を伝えていく必要があります。
これらの事業では、地元の子どもたちが知床の自然に親しみ、その価値を感じてもらえるような自然の中での活動にも支援をいただいています。
みらいの知床へ
~ダイキン工業株式会社からのメッセージ~
従業員の「知床に行きたい!」というひとことから始まったボランティア派遣でしたが、10年たった今では寄付だけでは見えない価値を感じています。知床財団の職員と一緒に草を刈ったり、幼苗を植えこんだり…回を重ねるうちに、長期的な視点を持ちつつも、地道な取り組みを重ねることの重要性に気づくきっかけをいただいています。これは当社の事業活動にとっても重要なこと。自然環境問題を「自分ごと」として考えられる人材の育成にも役立っています。次世代に豊かな未来を継いでいく仲間として、今後も共に歩んでいきたいと思っています。
洲上 奈央子さん
(CSR・地球環境センター)