知床サスティナブルウィーク開催~2021.10/1-10/10
2018年に『知床アウトドアフィルムフェス』として始まった秋のイベントは、2020年にはより複合的な視座を持つ『知床オータムフェス』へと生まれ変わり、さらに今年は『知床サスティナブルウィーク』という新しい名前を掲げて開催されました。
「どうして何度も名前が変わるの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。それは、このイベントが知床国立公園のより良い利用と保全のあり方を模索する実践的な取り組みだからだと言えるでしょう。地域の様々な試行錯誤と創意工夫が、このイベントには詰め込まれているのです。
『知床アウトドアフィルムフェス』は、知床自然センターを中心とするホロベツ園地の魅力向上を目指す映像とアクティビティの祭典として始まりました。
その後の『知床オータムフェス』では、ウトロ市街地からカムイワッカ湯の滝までをシャトルバスで結ぶ試行事業も開始され、これによってイベントは観光利用と環境保全の両輪として機能するようになりました。『知床オータムバスデイズ』と名付けられたこの取り組みは、国立公園内の適正なアクセスコントロールと、移動そのものを楽しめる交通サービスの両立を目指すものです。長年問題となっているヒグマへの過剰接近や、交通渋滞を防ぎつつ、バスの車内から安全に野生動物との出会いを楽しめる体験を目指して、今回もこの社会実験が実施されました。
そして今年の『知床サスティナブルウィーク』では、さらにカムイワッカ湯の滝の上流部を16年ぶりに公開する試みもおこなわれました。これは、落石の危険から立入が禁止されている「一の滝」以奥の利用再開を検討するものです。カムイワッカ上流部の真価を提供するには、怪我や混雑といったリスクと向き合う必要があります。そのため、知床自然センターを拠点としたレクチャーの受講や、シャトルバスへの乗り換えなど、一体的な仕組みづくりが試みられました。
また、『知床サスティナブルウィーク』はコロナの時代におけるイベントのあり方を模索した取り組みでもありました。今回のイベントの核となったのが、知床のサスティナビリティについて改めて考え、発信することを目指した「サスティナブルトーク」です。トークでは、地域内外からゲストをお迎えし、産業や環境・エネルギーやゴミ問題・地域文化や芸術といった多様な観点からサスティナビリティへの気づきが提示されました。これらのトークはオンラインでの配信もおこなわれ、イベントを「集客」の場だけでなく、「学び」の場へと深化させるものになりました。
アーティストや地域クリエイターによる創作活動も、イベントを彩る新しい魅力として定着しつつあります。しれとこ100平方メートル運動地のアカエゾマツ間伐材を彫刻作品に昇華させるアートプロジェクトや、開拓小屋をブックカフェに活用するワークショップ、自然をテーマにした絵画やパフォーマンス作品の発表など、これまでにない多様性溢れる場が創出されました。
より良い国立公園の楽しみ方、ヒグマをめぐる軋轢の緩和、多様な知床の魅力創出…。いくつもの思惑を膨らませながら、このイベントは年を追うごとに進歩し続けています。私たちが目指すものは、これらの取り組みをフェスという特別な一日の出来事ではなく、当たり前の毎日にしていくことです。知床のサスティナビリティとは、このような日々の積み重ねから生まれてくるものだと信じています。この長い道のりを、地域の皆さんとコミュニケーションをとりながら、着実に歩んでいきたいと思います。