知床ではヒグマの人馴れ(Bear-to-human habituation)が進んでいると同時に、人のヒグマ慣れ(Human-to-bear habituation)も問題になりつつあります。親から独立したての若いヒグマや親子グマに対して、不用意に至近距離まで接近するアマチュアカメラマンや一般観光客(時に地元住民も)が増えているのです。
人馴れしたヒグマは人間の接近を許容する傾向にありますが、人が出会うすべての個体がそうであるとは限りません。また、許容する距離にも限度があります。
野生のヒグマはヌイグルミではありません。小さく見える1~2歳の若グマでも体重は通常30~60 kg以上あり、犬歯や爪といった強力な武器を持っています。動物の攻撃能力を甘く考えてはいけないと思います。
少し違う例で例えると、飼い主のいない見知らぬ大型犬がノーリード(つながれていない)状態で近くにいたとして、あなたはその犬に不用意に近づくでしょうか?
2013年の秋には知床国立公園内のある川で、多数のカメラマンや一般観光客が若いヒグマ2頭に接近して撮影を繰り返す状況が頻繁に発生しましたが、私たちは進行方向を妨げられたヒグマがイライラして、体を木にこすりつけている行動を確認しました。しかしそのすぐ近くにいたアマチュアカメラマンは、その行動の意味を理解していませんでした。
また、木の上に登ってドングリを食べているヒグマの真下で、(人間の)お母さんが赤ちゃんを抱っこしながら見上げているような信じられない事例もありました。
2014年の初夏には、知床五湖の近くに0歳の子グマを3頭連れた母グマが頻繁に現われました。この母グマは非常に攻撃的な性格で、人を見るとすぐに威嚇突進(ブラフチャージ)をしてきました。現場に到着するたび、私たちも繰り返し突進を受けましたが、案の定、車から降りた一般観光客が威嚇突進されたケースも起きていたようです。
車から降りた観光客が子グマに不用意に近づいたために母グマから威嚇突進された事例は、例えば他にも、2012年初夏の知床峠で起きています。
私たちは、知床で自然を「知り・守り・伝える」活動をしています。
これらの活動は知床を愛する多くのサポーターの皆様に支えられ、今後も支援を必要としています。