S・ヘレロ博士による基調講演 『人に慣れるヒグマたち その光と影』
実施日:10月11日 17:00~18:30
会 場:ウトロ漁村センター
3日間にわたる知床財団20周年記念プログラムに先立って、カルガリー大学名誉教授であるスティーブン・ヘレロ博士による基調講演を10月11日にウトロ漁村センターにて開催いたしました。博士は、『星野道夫の死』という補章とともに日本で出版されて以来ヒグマとの事故を防ぐためのバイブル的存在となっている『ベア―・アタックス』の著者であり、ヒグマによる被害・事故はなぜ起きるのか、どうしたら防ぐことができるのかを長年研究していらっしゃる世界的に高名なヒグマ研究者です。
講演では、ヒグマ、そして人間という生き物が共存と軋轢を織り交ぜながら歩んできた世界各地の歴史を振り返りつつ、ヒグマによる事故や被害を少なくするための具体的手だてとその効果の紹介も行われました。また、北米各地の国立公園で人気のヒグマ観察ツアーがもたらす良い面についてのお話も印象的でした。これらのツアーの評価すべき点は、地元経済を支え、ヒグマの生態への理解を深めることに貢献しているだけではないというのです。野生の状態でのびのびと暮らすヒグマの姿を目の当たりにする感動、それが多くの人の心に、ヒグマだけでなく彼らの暮らす自然環境全体を守りたいという思いを育む大きな力を秘めている。ヒグマと共に生きる感動を分かち合える仕組みを作ること、それがこれからの知床のヒグマと人がともに生きる上で必要になっているのではないか。そうヘレロ博士は講演を締めくくりました。
町内外からおよそ200人の参加者の方々にご参集いただいたこの講演会、逐次通訳をはさみながら一時間半にもわたる長いものでしたが、会場は終始熱気につつまれ、お話のあとの質問タイムにも会場から次々に質問が飛び出しました。この講演会が、これから知床でヒグマと人はどんな付き合い方をしていけばいいのか、考えるきっかけ作りになれば幸いです。