世界で初めての抱卵イカとして知床沖で発見された謎のイカの種名が判明しました。
2010年より北海道大学、知床ダイビング企画、国立博物館と当財団で進めてきました調査によって、水中写真撮影された1991年以降、羅臼沖の「抱卵する謎のイカ」となっていたイカ類の1種の種名が判明し、世界で2例目となる抱卵するイカとして、このたび米国の学術誌「The Biological Bulletin」へ掲載されました。地元と研究機関、そして両者を繋ぐ知床財団あっての素晴らしい成果としてこの度の発見となりました。
●今回の発見、抱卵する知床半島羅臼沖のササキテカギイカ(Gonatus madokai)について
1991年以前、イカの仲間は卵を水中や底の岩場などへ産みっぱなしにすると思われていました。
しかしその年、羅臼の海で写真撮影されたイカの足には、黒い膜状の卵塊が付いていました。つまり、このイカは子供がふ化するまで面倒をみるイカだったのです。抱卵するイカという世界で初めての貴重な記録として1995年に学術誌で紹介されました。
新種ではないかという見方もありましたが、写真による情報しかなかったため種名は分からずじまいで、抱卵する謎のイカとして知床の海のミステリーになっていました。
2010年5月、このイカの種名を突き止めるため、羅臼漁協と地元漁業者のご協力のもと、北海道大学、知床ダイビング企画、国立科学博物館と知床財団のグループで調査を本格的に行いました。海に潜り抱卵するイカを見つけて写真撮影、その後捕獲して実験室へ持ち帰り、形態観察と遺伝子分析を行いました。
その結果、このイカは新種ではなく、北太平洋に広く分布するササキテカギイカ Gonatus madokai であることが明らかになりました。
すでに知られた種であったにもかかわらず新種かと思われてきた背景には、今までこの種が抱卵することが報告されていなかったこと、撮影された姿が産卵前の姿からは似ても似つかない体型だったことが挙げられます。
産卵と抱卵で全エネルギーを使い果たした体はクラゲのようなゼリー状、触るとバラバラになってしまうような状態でした。知床の海で抱卵したササキテカギイカが見られるのは、この海が豊かで生まれた稚イカのための餌がたくさんあるのを親イカが知っているからに違いありません。
今後もさまざまな調査研究を重ね、知られざる知床の海の姿を明らかにしていきます。ご期待ください!
写真:ササキテカギイカの子供
●掲載された論文について
著者: Bower, John R. 1, Katsunori Seki2, Tsunemi Kubodera3, Jun Yamamoto4, and Takahiro Nobetsu5
(ジョン バウアー・関 勝則・窪寺恒己・山本 潤・野別貴博)
タイトル: Brooding in a gonatid squid off northern Japan
(北日本沖で確認された抱卵イカについて)
掲載誌: The Biological Bulletin,
掲載年月: 2012年12月
1、北海道大学大学院水産科学研究院
2、知床ダイビング企画
3、国立科学博物館 標本資料センター
4、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
5、公益財団法人 知床財団
※なお、この成果が掲載されたThe Biological Bulletinの2012年12月号の表紙には共著の関勝則氏が撮影した「抱卵したササキテカギイカ」のカラー写真が採用されています。
(担当:野別)