今年のクマ事情(2013年8月末現在)その①
4~8月末時点での斜里町内でのヒグマ目撃件数は434件(昨年同期1314件)、対応出動件数は200件(同691件)、羅臼町内での目撃件数は59件(同306件)、対応出動件数は60件(同258件)でした(但し、出没時対応のみで、予防対応は除外。グラフをクリックすると拡大します)。
グラフを見ると一目瞭然ですが、両町ともに過去にない大量出没のあった昨年はもとより、一昨年と比較しても少ないことがわかります。例年だと6~7月にかけての初夏に出没が多くなりますが、特に斜里町では今年ピークらしきものは見当たりません。また羅臼町では5、6月の出没が極端に少なかったことがわかります。昨年は例年だと落ち着きをみせる8月に入っても出没が一向に収まらず、むしろ月別では最多となり、半島部では痩せ細ったり、餓死したクマが見つかるといった異常事態が起こりました。これはカラフトマスの遡上が1か月近く遅れ、8月は全く遡上が見られなかったことと、ハイマツなど高山帯の実りが悪かったことなど複数の原因が重なった結果ではないかと推測されました。
それでは今年の状況はどうだったのでしょうか?
まず昨年のように顕著に痩せ細ったり、餓死したクマは今年見つかっていません。
カラフトマスについては、遡上量こそ多くないものの、遡上開始の時期は例年並みでした。それと昨年と大きく違う点として、海岸沿いでもハイマツ種子を食べたと思われる糞が多く見られました。マスの遡上量が少ないこともあり、この夏はハイマツを主体に食べていたのかもしれません。昨年はハイマツ入りの糞は全く見つかりませんでした。右上のグラフは調査のためGPS発信機を装着したクマのこの夏の標高移動を示したものです。このグラフをみても、初夏から夏にかけて低~高標高を行ったり来たりしていることがわかります。ハイマツだけでないでしょうが、山の「何か」を求めて山登りを繰り返していたようです。
今年の出没件数はなぜ少ないのでしょうか?
もちろん現時点で明確な答えをもち合わせているわけではありませんが、ただいくつかの仮説をご紹介します。まずは前述のとおり、ハイマツなど中~高標高帯の実りが好調だったため、例年に比べ低標高帯よりも標高の高いエリアに活動域が集中していた可能性です。もう一つは昨年、半島部世界自然遺産地域内では衰弱や餓死したクマが発見されましたが、これは一部で人の目に触れることなく多くのクマが餓死などで死亡していた可能性などがあげられるかと思います。特に親から独立直後の若グマは経験も浅く、人前への出没などトラブルをおこすことの多い世代ですが、昨年この世代がかなり淘汰されてしまったのかもしれません。
今後の出没状況はサケマスの遡上状況や、ミズナラのドングリなどの豊凶状態によってはまた変化するかもしれません。シーズン後半も注意深く見守って行きたいと思います。
(事務局長 増田)