知床財団

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平成28年度 北海道大学獣医学部の野外実習を行いました

今年度も、9月12日~16日の期間、北海道大学獣医学部の野外実習を受け入れました。

この実習の目的は、学生の皆さんに保全生態学と野生動物医学に関する知識と技術を習得してもらうことにあります。単に情報を伝えるだけの一方通行の学習ではなく、学生の皆さんが自主的にテーマを決め、事前に調査の内容や対象の動植物について調べてきてもらっています。

今回は知床自然センター周辺から岩尾別にかけてのフィールドで、3班に分かれて調査し、それぞれ結果をまとめてもらいました。各班のテーマは次の通りです。

1班:知床の植生とヒグマの食性について

2班:キツネ・タヌキの寄生虫(エキノコックスなど)について

3班:知床のシカと植生と寄生虫(ダニ類)について

野生動物の多い知床ならではのテーマですね。実際に学生の皆さんにブログ用のレポートを書いていただきましたので、続きをご覧ください。

注)寄生虫など一部グロテスクな写真が含まれています。

1班:知床の植生とヒグマの食性                  

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1班はクマ糞から、ヒグマの食性を調査しました。

私たちは、クマ糞を岩尾別地区から採取し、植生の調査やヒグマの痕跡を探したりもしました。

岩尾別地区では、クマ糞に限らず、遡上したサケを食べた残渣や実際のヒグマに遭遇することができ、緊張感が高まりました。また、森の中を探索し、クマが好んで食べるシウリザクラやヤマブドウ、ハイマツといった木の実や種も発見しました。

 

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糞内容はポイントフレーム法という方法を用いて、糞を水で洗って濾して調査しました。結果としては、シウリザクラやハイマツが見られ、今回の調査ではサケの残骸などは見られませんでした。やはりこの季節のクマの食性の中心は植物ということなのかと思います。

%e7%9f%a5%e5%ba%8a%e5%ae%9f%e7%bf%92-4ただ、先生から提供していただいた糞のサンプルからは蟻やサケの残骸が見られ、実際には多様な食性が見られることがわかりました。短期の調査では、十分なサンプルを得られず、フィールドワークの難しさを感じました。

クマの死体の解剖も行いました。検体の腹部を開くと、腸管の中からたくさんの寄生虫が出てきました。その数なんと40匹!私たちは大興奮でした。また、胃の中には大量のテンサイが入っていました。畑を荒らして食べたことが容易に想像できました。

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2班:エキノコックスに夢チュー                   

みなさんこんにちは。北海道大学獣医学部の野生動物学演習で訪れた、キツネ班・2班です。私たちは、キツネとネズミのエキノコックスの探索を中心とし、タヌキの解剖とその足跡さがし、赤外線カメラによるタヌキの撮影に挑戦しました。

9月13日、キツネ糞探しを中心とした探索を行いました。
キツネ糞は国立公園内の道路沿いで2個、公園外の道の駅付近で4個見つけました。

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タヌキのため糞を2つ見つけ、そのそばに赤外線カメラを設置しました。

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道中ではタヌキの足跡を見つけました。%e8%b6%b3%e8%b7%a1%e3%83%aa%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%82%ba

 

 

 

 

 

 

9月14日、前日に仕掛けておいたシャーマントラップ(ネズミ捕り)※を回収したところ、見事にボウズでした。もう一晩設置し、望みを明日につなげました。ちなみに、2個の罠がなくなっており、キツネか何かに持っていかれたようです。※ネズミの捕獲は許可を得て実施しています。

%e3%83%af%e3%83%8a_%e3%83%aa%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%82%baその後、カメラの回収を行いました。カメラの一つにはシカが写っていました。もう一つはため糞に新しい糞が追加されていて、喜んだのもつかの間、カメラ映像にはクモの巣が揺れるばかりで動物の姿はありませんでした。後者をもう一晩設置することとしました。

午後、集めた糞の虫卵検査を行いました。キタキツネの糞には、寄生虫エキノコックスの虫卵が含まれている場合があります。ネズミ(主にエゾヤチネズミ)がその虫卵を食べることで感染し、肝臓で幼虫が増殖して大きく腫れます。そのネズミをキツネが食べることで成虫が腸に寄生・産卵し、感染環が一周します。今回は、どれほどの糞にエキノコックス虫卵が入っているか調べました。

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濃い砂糖水で虫卵を浮かべ、カバーグラスにくっつける(左) 虫卵を顕微鏡で探す様子(右)

結果、な、なんと、一つも出ませんでした。ただ、寄生虫の一種・肝吸虫の虫卵と思われるものが一つだけ見つかりました。

タヌキの解剖では、体表にマダニが喰いつき、胃からは数匹のエゾサンショウウオが出てきました。腸にエキノコックスの成虫がいないか探しましたが、いませんでした。

15日、祈りながらシャーマントラップを回収しましたが、またしてもネズミは一匹もかからず、ネズミのエキノコックス感染の調査はできずじまいでした。
しかし、最後の望みだった赤外線カメラに、タヌキと思われる動物が1秒未満、映っており、一同歓声を上げて喜びました。

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裏テーマとして、班対抗・外来種グランプリが開催されました。わが班は優勝間違いなしのセイヨウオオマルハナバチ(雄)を捕らえて喜ぶも、全班が捕らえており、女王蜂を捕った班もいました。

 

 

3班:知床とエゾシカ 寄生虫と植生                 

3班の目的は、①エゾシカに付着したダニと草薮にいるダニの同定すること、②知床でのシカが分布している区域としていない区域における植生の違いを調査することでエゾシカの食害の実態を知ること の2つです。

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野外でのダニ採取の様子

防鹿柵内外で白い布を振り、ダニを捕獲しました。天気にも恵まれ、知床の大自然の中でのフィールドワークは気持ちよく、大きなダニが捕獲できた時にはつい喜んでしまいました。そのダニを顕微鏡で観察して分類します。その結果は防鹿柵外(シカが行動する域)の方が著明にダニの数が多く、幼ダニが多かったです。そのダニの種類を同定すると、チマダニ属が多かったです。顕微鏡下でのダニの観察は、はじめはそれぞれの特徴が分からず苦戦しましたが、だんだんと慣れ、素早く行えるようになりました。

シカの耳からもダニの採取を行いました。シカの耳では予想していたよりも多くのダニが吸血していて見ているこちらも体が痒くなってしまいました。耳の外縁にマダニが多くついていて、吸血しているものはがっちり皮膚にくっついていて(セメント質の物質を皮内に注入している)採取しづらかったです。こちらも顕微鏡で観察すると、マダニ属が多く、その中でも採取したものは♀が多かったです。

 

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顕微鏡で観察したオオトゲチマダニ

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ラボでのダニの観察

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食性調査の様子

シカの食害を調べるため、防鹿柵内外において植生調査を行いました。
 まず向かったのは、防鹿柵内です。防鹿柵は元開拓地で、日陰が多くササが繁茂していました。たくさん美味しそうなイチゴが足元にたくさん生えていましたが、棘が鋭く軍手を突き抜けて手に刺さりました。調査中に黄毒蛾がもぞもぞと歩いていて、これに触れたらあら大変!かぶれてしまうので要注意です。中にはヨモギやワラビ、クマイザサやエゾイチゴが生えていました。これらは防鹿柵外にも見られましたが、好んで食べるシカが入ってこないため、中の方が丈が高く数が多い傾向がありました。

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鹿囲い罠付近

 その後お昼ご飯を食べました。隣にはシカの囲い罠があり、午後はこの中を進みました。海岸付近のよく陽のあたる防鹿柵外で再び調査を行いました。こちらはシカの好まないキオンやハンゴンソウが大きく伸びていました。

 

 

 

 

 

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セイヨウオオマルハナバチの女王

 2日目の午前中はオロンコ岩に向かいました。オロンコ岩にはシカやクマが登ってこないため、昔からの植生が保たれています。シカが好むため、他の場所では見られないようなトリカブトやオオハナウド、エゾノシシウドなどが生息していました。ここで、外来種のセイヨウオオマルハナバチの新女王蜂がいたので捕獲!!よく見るとお尻が白くて可愛い?かったです

♪(´ε` )

 

 

 午後はオトコノナミダ(フレペの滝の隣にある滝、歩道なし)へ向かいました。途中、母娘のシカに遭遇!どうやら人に慣れた様子で私たちを見ても全然逃げませんでした。日陰の原生林で調査を行った結果、シカのあまり好まないツタウルシやフタリシズカがよく見られ、クマイザサやワラビは柵内よりも丈の低いものしか見られませんでした。調査を通して、シカが植生に与える影響がはっきりとわかりました。

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調査中に出会った鹿

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に                              

今回は各班それぞれに知床財団スタッフが付き添い、現地の案内やサンプル採取のアドバイスなどを行いました。この野外実習は毎年行われていますが、毎回新たな発見があり、スタッフとしても勉強になります。昨年は17匹ネズミが捕まりましたが、今年はまったく捕まらないなど、ネズミの生息数に昨年のミズナラ堅果の凶作が影響しているのかもしれません。よく見ないとなかなか気が付きませんが、やはり自然というのは毎年毎年違うものですね。

学生の皆さんの野外実習は終わりましたが、今回の実習の経験が大学での研究などに役立つことを願っています。

(担当:能勢)

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