平成29年度 北海道大学獣医学部の野外実習を行いました
今年度も、9月26~30日の期間、北海道大学獣医学部の野外実習を受け入れました。今回は獣医学部4年生14名の参加となりました。
昨年も書きましたが、この実習の目的は学生の皆さんに保全生態学と野生動物医学に関する知識と技術を習得してもらうことにあります。知識や技術の情報を一方的に教えるのではなく、学生の皆さんが自分達でテーマを決め、事前に調査の内容や対象の動植物について調べてきてもらっています。私達の役割は調査のフィールドを案内したりアドバイスをすることです。
学生の皆さんには3班に分かれてもらい、知床自然センター周辺のフィールドでそれぞれのテーマに沿った調査やサンプル収集をしてもらい、その後、実験室でサンプルの分析等を実施してもらいました。各班のテーマは次の通りです。
1班:ヒグマの糞と食性について
2班:キツネとネズミと寄生虫の関係
3班:エゾシカとダニと植生の関係
実際に学生の皆さんにブログ用のレポートを書いていただきましたので、続きをご覧ください。
注)マダニなど一部グロテスクな写真が含まれています。
1班:ヒグマの糞と食性について
1班は、ヒグマの痕跡と植物の位置関係について調査しました。河口や森の中を歩き、痕跡を探しながらヒグマが食べると予想される物を見つけてマッピングしました。今回は主にミズナラやヤマブドウを見つけることができました。この時期にいると予想していたサケマスはいませんでした。遡上が見られず残念です。
糞をポイントフレーム法で分析しました。結果、ミズナラ、ヤマブドウ、サルナシが見られました。比較のために高山で拾った糞を分析すると、低地で見られたものとは異なりハイマツ、ガンコウラン、コケモモなどの高山植物が見られました。また、サケマスは見られなかったためこの時期のヒグマは植物中心の食性であることが分かりました。
ヒグマの食べる植物は予想よりも広い範囲に生息していて、短い期間でヒグマの行動範囲を特定することは難しいと感じました。また、調査中にヒグマに遭遇しました。実際に見ると体がとても大きく迫力があり、怖かったです。
p.s. 実習中にネズミザメの解剖をする機会がありました。哺乳類との違いが多く臓器を特定することすら難しかったです。大変貴重な経験になりました。
2班:キツネとネズミと寄生虫の関係
皆さんこんにちは。北海道大学獣医学部の野生動物学演習で訪れたキツネ班、2班です。
私たちはキツネとネズミのエキノコックスの調査を中心とし、赤外線カメラによる野生動物の撮影、動物の解剖を行いました。
9月27日
エキノコックス調査のためのキツネの糞探しを行いました。国立公園内の散策道を回りながらカメラを設置する場所とキツネ糞を探しました。散策道は緑が豊かで、開けた丘でみた山々はとても美しかったです。探索の結果、キツネ糞は国立公園内で4つ、道の駅で2つ見つけました。国立公園内のキツネ糞は道端や自然センターの近くにも存在していました。赤外線カメラはタヌキのため糞近く、何者かに掘られた形跡のあるリス穴の付近、許可を頂いたネズミ取り用のシャーマントラップを設置したスキー場に設置しました。
9月28日
朝、天気はあまりよくありませんでしたが、前日仕掛けたシャーマントラップの回収を行いました。私たちの班だけ1匹も捕獲することはできませんでしたが、1班と3班のおかげで、8匹捕まえることが出来ました。その後施設に戻り、ネズミの解剖を行い、エキノコックスに感染していないかを調べました。今回はすべてのネズミでエキノコックスは検出されず、すべて健康でした。
また、前日採取した虫卵をショ糖浮遊遠心法で検査しました。その結果、多包条虫の虫卵は見つかりませんでした・・・。
しかし、赤外線カメラにはタヌキがため糞場に来ている様子が写っていました!前日仕掛けた際に観察した限りでは、最近利用したようには見られなかったので不安でしたが、カメラに映っていて驚きました。
今回の散策する中で様々な外来種の捜索も並行して行いました。今回は、棘々としたアメリカオニアザミや美しい花をしたジギタリスなどを見つけました。道の駅では特定外来生物に指定されているセイヨウオオマルハナバチの新女王を捕まえました。実習に同行してくださった知床財団の方がおっしゃっていたように、多くの人が通る場所で外来種が多く発見されたように感じられました。
最後に、知床での素敵な体験をさせて頂いた野生動物学教室の先生方と知床財団の方々にこの場を借りて感謝を述べたいと思います。ありがとうございました。
3班:エゾシカとダニと植生の関係
3班「ダニと植生」の目的は①知床にいるダニを採集・同定して、その分布を札幌近郊と比較考察し、②防鹿柵内外で植生の違いを調査し、エゾシカの食害実態を調べることでした。
①ダニの採集・同定
知床自然センター横の茂みで「旗振り法」によってダニを採集しました。今年は時期が遅いため採集はかなり困難かと思われましたが、半日行うだけでも十分な数が集まりました。翌日一日かけて同定を行いました。顕微鏡を用いて各ダニの形態的特徴を基に同定するのですが、キチマダニとオオトゲチマダニの判別は難しく、慣れるまで時間がかかりました。結果は圧倒的にキチマダニが多く、成ダニでは70%以上を占めていました。
また、同時に5月頃知床で捕獲されたエゾシカの耳よりダニを採取・同定しました。しかし先ほどの結果とは打って変わってこれらは全てヤマトマダニでした。採集したセンター横の茂みでも頻繁にエゾシカが目撃されていたことから、この差異はダニの動物種の嗜好性ではなく、季節によるものではないかと思われます。
②植生調査
自然センター付近の防鹿柵内外で植生の調査をしました。項目は4つで、それぞれ柵内外での1.ササ群落の高さ 2.胸高直径5 cm以下の本数 3.樹皮剥離など食痕の確認 4.植物種の鑑別でした。ササは柵内の方が平均60 cmほども高く、胸高直径5cm以下の植物は柵内では調べた14本のうち6本が該当したのに対し、柵外では無数にある中で数本しか見当たらず、その数本もエゾシカがあまり好まないカラマツなどでした。
このように、柵内と比べて柵外のササ群落が低く、幹の直径が短い植物(特にエゾシカが好むもの)の数が少ないことから、エゾシカによる食害が深刻になっていると思われます。なお、樹皮剥離に関しては食痕を調べるのが難しく測定ポイントでは見つけられませんでしたが、自然センター付近で確認できました。この樹皮剥離については深刻化していることもあって保護活動が行われており、調査中でも樹皮が保護されている樹を何本も見ました。
最後の鑑別に関しては持ってきた資料を基に行いましたがダニ以上に難しく、職員さんに何度も相談しながら同定しました。鑑別の結果、シカが届く範囲である下草や低木はミミコウモリやハンゴンソウなどシカが忌避する植物が多く見られ、これらの調査を通してエゾシカが知床の植物群落に対し与えている影響の大きさというものがわかりました。
- ③外来種の確認
➀➁に加えて、知床に生息する外来種の調査も行いました。確認できたのはセイヨウオオマルハナバチ、アメリカオニアザミ、エゾノギシギシ、カラマツ、シロツメクサでした。植物類は植生調査もあり簡単に見つけられたのですが、セイヨウオオマルハナバチは偶然アメリカオニアザミを見たときについていたものを捕獲できたのでとてもうれしかったです。外来種というと国外から入ってくるものをイメージしてしまいますが、カラマツは本州から入ってきた国内外来種というものであり、国内の移動でも外来種扱いされるものがあることを知り、驚きました。
最後に
学生の皆さん実習お疲れ様でした。この野外実習は毎年行われていますが、昨年はネズミがまったく捕まらず、一昨年は17匹捕まるなど、自然の様子は毎年違うようです。私達は断片的な情報から自然の理を理解しようとしますが、同じ種類の動物であってもやはり一つ一つの命は異なるものです。実際に野外で活動し、生き物に触れて知り感じることは、書物やインターネットで知り得ることとは一線を画すものがあると思います。今回の経験が、皆さんの今後の学問や仕事の糧となることを願っています。
(担当:能勢)