平成30年度 北海道大学獣医学部の野外実習を行いました
今年度も、9月25~28日の期間、北海道大学獣医学部の野外実習を受け入れました。今回は獣医学部4年生15名の参加となりました。恒例の行事みたいになってきましたが、毎年来られる学生さんたち(と教員のみなさん)のユニークさとパーソナリティーにスタッフは新鮮さを感じています。
学生の皆さんには3班に分かれてもらい、知床自然センター周辺をフィールドにしてもらってそれぞれのテーマに基づいた調査やサンプル収集をしてもらいました。
班ごとのテーマは1班が「ヒグマの食性」、2班が「キツネとネズミと寄生虫」、3班がエゾシカとダニと植生」です。実質2日半という短い時間で、野外調査とデータ分析、取りまとめ、発表を行うという忙しいスケジュールでした。さらに実習の成果報告という形で、学生の皆さんにブログ用のレポートを書いてもらいました。
ブログへの投稿は2013年から毎年行っていますのでよかったら過去記事もご覧ください(2017年、2016年、2015年、2014年、2013年)。OBの人達も見ているかもしれませんね。
以下からが学生のレポートになります。
1班「くまと、うんちと、それからわたし」
わが班はクマの糞の内容物をポイントフレーム法にて調べるためにまずはクマのうんちと果実を採集しに森の中を歩きました。
森の中では自然の厳しさを身を持って体験することができました、私たちは登山に行くことが多々あるのですがとても経験したことのないような急斜面を滑り降りたり、川の中に飛び込んだりクマと同じ気持ちになることができました。
初めはなかなかうんちを見つけることができませんでしたがクマの気持ちになってうんちについて考えることでついに大量の様々なうんちを発見できました。
うんちをポイントフレーム法で調べるとヤマブドウ、ナナカマド、ハイマツ、どんぐり、シウリザクラ、サルナシの種子、蜂などの虫、マスの骨などを見つけることができ、うんちの香りや触感と合わせて五感をもってクマが様々な食性を持ち生態系にかかわっていることが分かりました。
山の中を歩いて採取した様々な果実の種子標本を作製しました。ヤマブドウ、ナナカマド、ハイマツ、サルナシ、キタコブシなどの種子を採取することができました。ヤマブドウは少し酸っぱかったけど、おいしかったです。ナナカマドは苦く、人が食べてもおいしいとは感じないようでした。サルナシはキウイの近縁種らしいですが、まだ熟していなかったのかすごく口の中がしびれました。
また、山の中に仕掛けてあるヘアトラップのカメラを見に行きました。カメラにはヒグマが背こすりしている姿が確認できました。知床センターから宿舎への帰り道でも親子のヒグマが川沿いにいることが目視で確認できました。
ヒグマのうんちを調査することで、知床の自然の豊かさ・海と山のつながりを感じました。知床財団の皆様、3日間様々なことを教えていただき、ありがとうございました。
p.s.
今回最大の急斜面での待機中。この後みんな滑り落ちていきます。
2班「エキノコックスの感染調査」
2班は、エキノコックスの感染調査と赤外線カメラによる野生動物の観察を行いました。
エキノコックスの感染調査は、ネズミの捕獲・解剖とキツネ糞の採取・検査によって行いました(※ネズミの捕獲は許可を得て実施しました)。
シャーマントラップを仕掛け、8匹のネズミを捕まえることができました。解剖の結果、捕まえたネズミは全てエキノコックスには感染していませんでしたが、1匹の腸管に条虫が寄生しているのを見つけました。
キツネ糞は7個採取し、ショ糖浮遊法による虫卵検査を行いました。結果は全てエキノコックス陰性でした。他の虫卵なども検出されませんでした。
赤外線カメラは3カ所、野生動物が通りそうだと思ったところに仕掛けました。そのうちの2カ所でシカが映っていました。
上記の調査に並行して、外来種の調査も行いました。キツネ糞採取のためのフィールドワークの最中に、外来種の植物をいくつか発見しました。また、セイヨウオオマルハナバチの働き蜂と女王蜂を1匹ずつ捕まえました。
今回のメインテーマはエキノコックスの感染調査でしたが、検出されなくてよかったです。
実習を通してフィールドワークなど普段大学ではできないことができ、貴重な経験となりました。
3班「エゾシカ・ダニ・植生」
・防鹿柵内外での植生の調査
鹿の侵入を防ぐために設置されている防鹿柵の内外で、植生の違いを確認しました。柵の中ではすすきやオオバコ、よもぎなど、鹿の嗜好性が高い植物が多く見られたほか、草丈も高い傾向にありました。一方柵外では、鹿の食べた跡があるイネ科草本やササが主に生えており、草丈は全体的に低くなっていました。また、不嗜好性のハンゴンソウなども見られました。これらのことから、防鹿柵はシカの侵入を防ぎ、植生の保護に役立っていると考えられます。
・鹿の解剖
交通事故に遭った子鹿の検体が運ばれてきたため、ダニの採取と解剖による死因の推定、胃内容物の確認を行いました。子鹿に目立った外傷はありませんでしたが、心尖(心臓の一部)と左肺に裂傷があり、出血および胸腔への血液の貯留が見られました。
胃内容物を確認すると、第1胃には草の他に、殻がついたどんぐりやナナカマドの実が確認できました。どんぐりは第4胃では脂肪の塊になっており、バーナーで加熱すると香ばしい香りがしました。フォアグラだバターだと盛り上がりましたが、圧倒的なうんち臭に、食べることは断念しました。腹腔内に脂肪が見られたため、冬に向け栄養価の高いどんぐりなどを食し、蓄えにしているのだと考えられます。
・ダニの採集・同定
実習1日目に、フランネル法を用いて防鹿柵の内外でダニの採集を行いました。成ダニは柵内で0匹、柵外で2匹と、ほとんど採集できなかったので、柵の内外で分布に差があるかどうかはわかりませんでした。柵外で取れた2匹の成ダニはどちらもメスのキチマダニでしたが、キチマダニにしては色が褐色であったため、鑑別が難しかったです。
シカがよく目撃される知床自然センター付近でも同様に採集したところ、成ダニが19匹採集できました。13匹がオオトゲチマダニで、6匹がキチマダニでした。
解剖したシカからもダニを採集したところ、成ダニは2匹しか取れませんでしたが、シカシラミバエが25匹も採集できました。成ダニは2匹ともシェルツェマダニでした。鑑別不能な幼ダニは数え切れないほどついていました。
季節的な問題で全体的に成ダニの数が少なかったため、シカの移動によるダニの分布の差は、今回の調査ではわかりませんでした。
・防鹿柵内外での土壌の調査
防鹿柵の内外10か所ずつで土を採取し、土壌動物と土壌の成分について調べました。土壌動物はツルグレン装置を用いて採集し、鑑別を行って、柵の内外の自然環境を評価しました。鑑別した指標動物の種類で点数をつけたところ、柵内外で点数に差は見られませんでしたが、柵内では甲虫の幼虫やサナギ、アリなどが多く見られたのに対し、柵外ではウジなどが多く見られました。このことから、防鹿柵の内外で自然の豊かさに差は見られませんでしたが、動物の侵入などによる土壌動物の分布の差はあると考えられます。
土壌成分については、簡易検査キットを用いてpHや硝酸態窒素、リン、カリウム値を測定し、柵の内外における違いを調べました。結果として柵の内外で土壌の成分に差は見られませんでしたが、シカの糞についても同様に調べたところ、土壌とは大きく異なっていました。このことから、シカの食害による植生の違いは土壌成分には影響を及ぼさず、シカの糞も、土壌成分に直接的には影響を及ぼさないと考えられます。
学生の皆さん、実習おつかれさまでした。期間中、天候にも恵まれ事故・怪我なくすんだことは幸いでした。毎回思うことですが、若い新鮮な視点で知床を見て調査してもらうことは私達にとってもよい刺激になっています。実習は終わりましたが今後も何らかの形で知床に関わってくれたらなと思います。
(担当:能勢)