野生生物と社会学会@九州大学でヒグマの話をしました
今年の第24回「野生生物と社会」学会大会は九州大学伊都キャンパスで開催されました。
そこで私達知床財団スタッフもテーマセッションとして、敷田教授(北陸先端科学技術大学院)と共同発表してきました。
今回のテーマは「知床国立公園における野生動物観光に対するICTの影響と課題」ということですが、簡単に言うと近年はスマートフォンの普及で野生動物の写真や情報がSNSで簡単に拡散されるようになり、それが人の動きに影響を与え、ひいては野生動物にも影響を与えている可能性がある、ということです。さらにざっくり言うと「インスタ映え」が野生動物に影響を与えているかもしれない、ということです。今回はSNSに投稿され拡散されている知床のヒグマの情報について現状を説明し、会場の皆様と議論しました。
知床国立公園ではヒグマの人慣れや人のヒグマ慣れが進行し、ヒグマと人との距離が急速に縮まっている状況で、それによって様々な問題が発生しています。その状況下で人々はこぞってヒグマの写真を撮り、銘々のストーリーをつけてSNSにアップし、それが拡散されています。
今回はInstagramに投稿されている知床のヒグマの写真に着目し、Instagramのサービスが始まった2010年以降、投稿数とユーザー数がどのように変化してきたか集計しました。ヒグマの写真が初めて投稿されたのは2011年で、その時はわずか数件でしたが、年々その数は増加し続けました。「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれた2017年に一気に急増し、2018年は最多の607件となりました。8年間の合計で1,303件の知床ヒグマ写真が投稿されていたのです。そして投稿したユーザーの数は735名、獲得した「いいね!」の数は121,505件にも達しました。
私達はこれらの数字が今後も増え続けると考えています。また危険なセルフィー(自撮り)やドローンによる野生動物への接近撮影など、別の問題も今後発生すると考えています。これらは社会現象であり、その波は知床にも押し寄せ、ICTともインスタ映えともまったく関係なく暮らしている野生動物にも少なからず影響を与えるのではないかと憂慮しています。しかしながら行政や関係機関はこのような流行にはついていけていない、というのが現状です。
会場からは、「クマによる事故が起こるとツイッターで流言飛語が出回り、間違った情報でもたちまち拡散される」、「SNSで正しい情報を発信する必要がある」、「SNSは国境を越えて海外へも影響があり、多言語での発信も重要となる」等の意見がでました。そしてこれからの時代、SNS上で形作られる現実とは異なる世界で、野生動物の研究者や実務者も対応していかなければならないのだと、共通の認識を持てたと思います。
(担当:能勢)