エゾシカの生体捕獲・標識放逐を実施しています
最近、耳にタグ(標識)をつけたエゾシカを国立公園内で見かけることがあるかと思います。
この標識ジカは、北海道立総合研究機構が今年から3年間かけて実施する調査・研究の取組みのひとつで、ルシャ地区と他のエリアで複数のエゾシカに発信機を装着し、行動追跡や生存率、妊娠率などを調べ、エゾシカの個体群がどのように変化しているか分析するために実施しています。
知床半島のルシャ地区は現在、エゾシカが最も多く生息している場所であり、昨冬のヘリコプターからのカウント調査では181頭が確認されました。ルシャ地区はヒグマも数多く生息する場所であり、ヒグマはシカの新生子や衰弱した個体を捕食していると考えられます。また高密度状態のシカは植生に影響を与え、ヒグマの利用できる植物を減少させるなど互いに影響を与えていると考えられます。しかしどの程度、ヒグマがエゾシカの個体群に影響を与えているか詳しく分かっていません。
遺産地域の一部(幌別-岩尾別、知床岬、ルサ-相泊)では継続的にエゾシカの密度調整(捕獲)が進められていますが、現在ルシャ地区は人の手を加えていません。
対照区として残され高密度が維持されているルシャ地区とこれまで人為的介入をしてきた幌別・岩尾別地域のそれぞれでシカの生体捕獲を実施し、捕獲個体には耳タグ及び発信機を装着します。そして、その個体の生存確認や子連れ状況を記録することで、各エリアのエゾシカの個体群特性を比較し、個体群の増加率に及ぼす特性の影響を明らかにします。
また、これらのデータは今後、知床半島エゾシカ管理計画の改訂やユネスコ/IUCNから求められている最小限の人為的介入によるエゾシカ過増加対策の検討に活用されます。
知床財団は現地でシカの生体捕獲・標識放逐に協力し、6、7月にルシャ地区、9月に幌別地区で麻酔銃による捕獲を実施しました。幌別・岩尾別地区では今後も生体捕獲を目標頭数(2019年は10頭)まで実施し、標識個体を増やしていく予定です。また、北海道立総合研究機構と協力して、現地で日常的に活動する私たちも、標識個体の目撃情報を蓄積していきます。知床自然センター周辺やその他の地域で標識個体を目撃することも増えていくと思いますが、調査にご理解をお願いします。
※本年度(2019年度)から3年間の予定で、「遺産価値向上に向けた知床半島における大型哺乳類の保全管理手法の開発」と題し、北海道立総合研究機構と北海道大学、知床財団が共同で調査・研究に取り組んでいます。実施にあたっては(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費【4-1905】を活用しています。
具体的には、①より正確なヒグマの生息数推定にむけた研究、②ヒグマ大量出没の要因解明に関する研究、➂ヒグマ捕食圧下におけるエゾシカの高密度維持機構に関する研究、の3つのテーマに取り組みます。
今後、活動ブログで順次、調査の様子などをお伝えしていきます。
(担当:清成)