知床財団

会員・寄付のお願い

REPORT
活動ブログ

羅臼ブログ第5回「今年も来ています」

 令和2年となりました。今年も羅臼から土屋のブログをお届けしますので、みなさまよろしくお願い致します。

 年が明けて寒さが一段と厳しくなってくると、オホーツク海から流氷が、風と海流で北海道に押し寄せてきます。羅臼沖の根室海峡に流氷が流入してくるのもそろそろ時間の問題でしょう。オオワシやオジロワシは餌をとるために、アザラシ類は繁殖のために流氷とともにやってきて、羅臼の町も観光客で少し賑やかになります。トドも来ますが、彼らは実は流氷が嫌いです。流氷を避けるように回遊しています。今回は流氷が来ると羅臼の海から逃げていってしまうトドを紹介したいと思います。

 トドは、私たちと同様に魚介類が大好物で、大きなオスだと体重1トンにもなるアシカの仲間の海生哺乳類です。一時大幅に減少し、1990年代にはレッドデータブックで「絶滅危惧種」に指定されました。その後生息数は回復し、北太平洋東部の個体群は危険度ランクが下がりましたが、羅臼の海にやってくる西部の個体群はいまだ絶滅危惧亜種のまま据え置かれています。

 根室海峡では、彼らは越冬や採餌のために毎年11月ごろから来遊します。海岸近くの浅瀬でプカプカと波間に浮いているのがしばしば見られます。仲良く並んでヒレを海面に上げていることもあり、さながら東京2020で日本のメダルが期待されているアーティスティックスイミングみたいです。そんな穏やかな姿を見せてくれる反面、大食漢で漁網にかかった魚を食べ、網を破いてしまうこともあり、漁業者からは嫌われ者です。そのため、羅臼沿岸では、追い払いや銃による駆除(頭数制限あり)などの対策がされています。

プカプカと波間を浮いているトド。

 一方、世界自然遺産の審査を任されている機関(IUCN)からは、登録準備の段階から「有害駆除は考えなおすべき」とのきびしい勧告が出され、一時は漁業者の反発で遺産登録が危うくなったこともありました。その後、今に至るまで、保全状況の報告を上げる度にユネスコ世界遺産委員会やIUCNから対策の見直しを求める意見が出され続けています。陸ではヒグマやエゾシカ対策、海ではトド対策と、羅臼は人と野生動物の軋轢を多く抱えたたいへんな町だということを改めて実感しています。

 私たち知床財団は、羅臼沿岸のトドの数を定期的にカウントしながら、生まれた島や年齢がわかる標識(幼獣の頃にロシア人研究者がつけたロシア文字と数字の焼き印)のついたトドを12年間にわたり記録し続けています。毎年、多い日には100頭以上が羅臼沿岸で遊泳していることや、8年連続で羅臼に来ているトドがいることもわかってきています。今年も流氷が接岸して、トドが去って行く頃まで調査を実施する予定です。

ドローンから撮影したトドの群。陸上からの観察ではなかなか頭数確認が難しいが、水面下も含めて21頭が確認できる。写真下方の中央付近の個体には標識(C801)が見える。

 実は私、この調査には知床財団に入る前の大学生の時(2008年)から参加しています。かつての私はこの調査のために、そしてトドは越冬と魚を食べるために、お互い異なる目的でこの時期に羅臼を訪れていましたが、いつの間にか私は羅臼の住民となり、トドを迎える立場となりました。数年前に確認した標識個体を見つけると「今年も羅臼の海に来たのだな」と双眼鏡越しに懐かしい気持ちになりつつ、「漁師の人たちに面倒をかけるんじゃないぞ」と複雑な気持ちになります。

 人間とトドのうまい付き合い方はあるのでしょうか。最近の観光船やダイビングガイドツアーによるトドウォッチングは、彼らとの新たな関係作りのきっかけになるかもしれません。私たちが継続して収集した調査データが、軋轢の解消に少しでも役立つ情報になることを願っています。


ならんで泳ぐ標識個体(Б745、Б61)

一覧へ戻る

この記事をシェアする

カテゴリ一覧

アーカイブ一覧

Donation知床の自然を受け継ぐため
支援をお願いします

会員・寄付のお願い

私たちは、知床で自然を「知り・守り・伝える」活動をしています。
これらの活動は知床を愛する多くのサポーターの皆様に支えられ、今後も支援を必要としています。

会員・寄付のお願い
TOP

知床財団 公益財団法人 知床財団
〒099-4356
北海道斜里郡斜里町大字遠音別村字岩宇別531番地
TEL:0152-26-7665

Copyright © Shiretoko Nature Foundation. All Rights Reserved.

知床財団