SEEDS編集部が選ぶ、この記事面白かった!②
当財団の活動を支援してくださっている賛助会員の皆様向けに年4回発行しているSEEDS(シーズ)のバックナンバーの中から、SEEDS編集部が面白かった!と思う記事を編集部が独断で選び、ご紹介します。
2012年秋号No.216「知床財団用語辞典」(2012年限定コーナー)
このコーナーでは、初めて聞いた人は誰でも「?」となってしまう、知床財団で日常的に使われている不思議な会話や言葉の数々をスタッフの実際の会話を聞きながら解説していきます。
【例文①】
「ストレート廃屋でガラくわえた無標識・亜成獣・単独個体目視中です。」
解説:
無線ではできるだけ短く要件を話すべし! 現場は常に緊迫している。むやみに大事な電波を独り占めしてはならないのだ。したがって発せられる一言一句には暗号のようにみっちり情報が詰まっている。例文を普通の言葉に置きかえてみよう。
「五湖の近くの道路のずっとまっすぐになっていてそばに廃屋があるあたりで(=ストレート廃屋)、追跡用の耳タグとか電波発信器のついてない(=無標識)、まだ大人になりきらないくらいの若めのヒグマが(=亜成獣)、他の動物に食べられて骨ばかりになった何かの動物の死体(=ガラ)をくわえてウロウロしてます。親子連れとかじゃなく一頭(=単独個体)です。で、そのヒグマは今まだ見える距離にいます(=目視中)。」
けずれる言葉は極限までけずる。試合前のボクサー並みのストイックさでしぼられているのが無線で使う知床財団用語だ。いざという時さらっと言えるように普段から練習しておこう。
【例文②】
「ダニスプレー10本も現金で買った人、誰ですかっ?
伝票書いて領収書と一緒に今すぐ持ってきてくださいっ!」
解説:
知床の大自然を相手に日々奮闘するのが仕事であっても、勤め人としてはたすべき義務が免除されるわけではない。マスの漁網にヒグマがからまって暴れているという通報に対応した後だからと言って、この間まとめ買いしたボールペンの伝票をあげなくていいわけではないし、100年後の大木たちのために雑草抜きをした後だからといって、ダニスプレーを買ったときの領収書をもらってこなくていいことにはならない。
そもそも公益財団法人である知床財団には、実は普通の会社よりもずっと細かいオキテと書類があふれている。「クマ」とか「シカ」とか言うのと同じかそれ以上の頻度でスタッフは「伝票」「請求書」「決裁」などという言葉を口走っているのだ。ちなみに「ダニスプレー」とは、畳などに噴射して使うタイプの防ダニスプレーのこと。本来の使い方ではないけれど、大量に這い上がってくるダニの魔の手から逃れるために、長靴や長靴とカッパの継ぎ目にスプレーしているスタッフは多い。