SEEDS編集部が選ぶ、この記事面白かった!③
当財団の活動を支援してくださっている賛助会員の皆様向けに年4回発行しているSEEDS(シーズ)のバックナンバーの中から、SEEDS編集部が面白かった!と思う記事を編集部が独断で選び、ご紹介します。
2009年春号No.202「スタッフの本棚 第1回」
スタッフお気に入りの1冊を紹介するこのコーナーは、本とともにスタッフの素顔を知っていただけるコーナーとしてSEEDSがオールカラー化して11年、途中休みを挟みながらも好評の声をいただき通算27回続いてきました。今回は「スタッフの本棚」の第1回目をご紹介します。
■アラン・ラビノウィッツ著
JAGUAR(ジャガー)
ラビノウィッツは、私のヒーローである。いや、「であった」いう方が正しい。彼が死んだから過去形というわけではない。私が変わったからである。
彼はアメリカクロクマの研究で博士号を取り、動物学者としてのキャリアを始めた。あのジョージ・シャラー(知らない人は調べてください)と出会い、中南米のベリーズでジャガーの調査を進めることになる。数々の困難を経て、彼の仕事は野生動物保護区の創立という実を結ぶ。
よくある冒険家の成功譚と思うかもしれない。確かにこの手の本は多い。しかし、この本はその質の高さで凡百の冒険ノンフィクションとは一線を画する。 もっとも、この本を手にした当時、青年海外協力隊で不完全燃焼した後に渡米し、野生動物管理学の修士課程にいた私は、熱帯で4年間過ごした過去の自分と、動物学者である未来の自分を作者にダブらせ、憧れと羨望を感じながら読んだ。そんな私は、この本を客観的に批評する立場にないだろう。この先も主観的に続けさせてもらう。
私はこの本に惚れ込んだのが高じてこの本の翻訳を試み、2~3の出版社に売り込んだことがある。話に乗ってくれる編集者もいたが、もう一歩で実現には至らなかった。
今思えば、この本を日本で売るにしろ、素人の私を翻訳者として抜擢することはまずあり得なかったろうが、気の早い私は、「訳者あとがき」の内容まで考える脳天気ぶりだった。私はこの本を、日本の動物学者とその卵たちへ読ませて、「どんどん世界へ飛び出せ!」とけしかけたかった。そして、その頃の私は、熱帯生態系の保全のため、東南アジアに骨を埋めることを夢見ていた。
ラビノウィッツは、このあとその東南アジアに活躍の場を移し、希少哺乳類の保全と研究の第1人者として成長し、円熟していく。彼はその過程を4冊(Jaguarを含む)の本にしている。2冊目までは前と同じように、血が騒ぐ思いで読んだ。3冊目になって、もはや彼の生き方に、自分の生き方を重ねられなくなっている自分に気がついた。単純に研究者としてケタ違い、比較にならんだろ、というツッコミが聞こえる。しかし、自分の人生の目的、夢が、以前とは質的に変わってきたためだろうとも思う。また、これが年をとるということか、とも思う。10年以上、彼の後ろを歩いているつもりでいたが、彼と私の進む道はいつの間にかずいぶんと離れてしまったようだ。
それでも彼が私のヒーローであったことに変わりはないし、この本は今でも大事な1冊である。