幌別川河口のサケ釣りの現状と経緯
幌別川
幌別川は、北海道の知床半島西側、斜里町にある河川。知床国立公園の入り口であり、世界自然遺産地域と、地域住民が生活しているウトロ地区との境界ともなっています。8月以降の幌別川にはカラフトマスやシロザケが遡上し、それを狙ってヒグマが頻繁に現れます。また、この幌別川の河口付近の海岸にも、同じくカラフトマスやシロザケを狙って毎年大勢の釣り人が訪れます。
しかし、幌別川河口周辺の海岸は2020年7月31日以降は立ち入りできない状況となっています。ここでは、その理由を過去の経緯と共に説明していきます。
2016年9月以前の状況
サケマス釣りで有名な幌別川河口は、不特定多数の釣り人が集まる人気スポットです。ヒグマが生息する場所だという事を頭で分かっていても、いざヒグマが出現した際には心の準備や退避の準備が出来ておらず、間違った対処法を取ってしまう釣り人が少なからずいます。例えば、一部の釣り人が釣った魚をその場で処理して、内臓や頭などをその場に捨ててヒグマを誘引してしまったり、離れた場所に置いていた荷物や魚をヒグマに奪われるなど、危険な状況が度々起こっていました。このような経験をしてしまったヒグマは、人身事故を引き起こす可能性が高いため、駆除せざるを得ないこともありました。2016年8月には、このようなトラブルが立て続けに発生しました。
2016年9月以降の状況
釣り人とトラブルを起こしたヒグマが頻繁に幌別川河口に現れるようになりました。そのため幌別川河口周辺は危険と判断され、2016年9月2日に幌別川河口付近への立ち入り自粛要請が関係行政機関によって宣言されました。しかし、幌別で釣りを続けていくことを希望した釣り人有志により、「幌別の釣りを守る会」(以下、釣りの会)が9月9日に結成され、ヒグマとの事故防止のためのルールを徹底することを条件に、幌別川河口付近での釣りを再開できることとなりました。釣りの会の活動開始以降は、ヒグマとのトラブルは激減し、ゴミや魚の内臓も捨てられなくなり、釣り場の景観が著しく改善しました。そして2020年3月には、知床ヒグマ対策連絡会議(構成組織:環境省、北海道森林管理局、北海道、斜里町、羅臼町、標津町、知床財団)により「幌別河口釣りガイドライン」(下記URL)が作成されました。
「幌別川河口釣りガイドライン」
2020年の状況
2020年7月31日、釣った魚を同日中に少なくとも2度、ヒグマに奪われる事件が起こりました。同一のヒグマにより魚が2度も奪われているため、人と食物(魚)を関連付けて学習してしまったことは明白でした。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、釣りの会によるルール徹底の呼びかけが縮小された状況下に加え、法的担保のない中でのボランティアによる「お願い」ベースの呼びかけでは、ヒグマとのトラブルを防ぐには限界がありました。人から魚を奪うことを学習したヒグマは頻繁に河口付近を徘徊するようになり、漁業者に接近したり漁船の上に乗りこむなど行動がエスカレートしました。このようにヒグマによる人身事故の危険度が増大したため、「幌別河口釣りガイドライン」に従って幌別川河口付近への立ち入り自粛要請が再び発令されました。
問題のヒグマは捕獲されるも依然として危険な状況
人から魚を奪うことを学習したようなヒグマは、「知床半島ヒグマ管理計画」(後記URL)における「行動段階2」または「行動段階3」のヒグマとして基本的に捕獲する対象となります。そのため、今回の問題個体も、警察による厳しい発砲に関する制約の下、ようやく8月24日に幌別川の河川敷内にて射殺されました。その後、釣りの会と関係機関(環境省、北海道森林管理局、北海道、斜里町、知床財団)が集まり、立ち入り自粛解除の可否も含めた今後の対応方針が話し合われました。その結果、新型コロナウィルスの影響で釣りの会の活動を縮小せざるを得ない状況に加え、捕獲されたヒグマ以外にもゴミに餌付いた可能性の高いヒグマが幌別川付近で活動しており、今後も人身事故発生のリスクが極めて高い状況が続くことから、2020年に関しては立ち入り自粛要請を継続することとなりました。
「知床半島ヒグマ管理計画」
http://hokkaido.env.go.jp/kushiro/kanrikeikaku.pdf