ヒグマの食物資源_①ハイマツの実(球果)
ヒグマの出没(人への生活圏への接近・侵入)件数は年によって変動があります。そこで、昨年から環境研究総合推進費を活用し、「クマの大量出没がなぜ生じるのか」※というテーマでその変動の解明に取り組んでいます。これまでの報告で、ヒグマは食資源が不足すると行動範囲が拡大して人里にも降りる頻度が高くなるため、より多く目撃されるようになると考えられています。
ヒグマは1年を通して多種多様な食物資源を利用します(図テーマ2_ハイマツ、サケ、ドングリ)。いつ・どこで何を食べているのかは、糞を拾って調べます(詳しくは「冬の間中、ヒグマの糞を洗って、内容物を分析しています」https://www.shiretoko.or.jp/report/2020/01/4914.html をご覧ください)。食資源(草本や木の実、昆虫、魚、エビなどなど)の中でも、特に①ハイマツの実(球果)、②サケマス、③ドングリ(ミズナラ)は冬眠前の脂肪を十分に蓄える上で特に重要で、これらの豊凶が大量出没年と関連が強いのではないかと注目しています。
そこで、今回は①ハイマツの実(球果)についてご紹介させていただきます。ハイマツは高木が生育できない高標高(森林限界以高)に生育しており、その球果(写真1)は、リスやホシガラスなど高山帯の多くの動物に利用され(写真2)、ヒグマが食べた糞(写真3)もよく見つかります。知床は他の地域よりもハイマツの出現する標高が低く、約400-500mからハイマツが生育しています(場所にもよりますが、概ね道内では1300m程度から、本州では1700m程度からの生育になります)。そのためか、海沿いの地区でもハイマツ糞が多く確認されており、半島全域のヒグマが利用できる資源と考えられます。
写真1:ハイマツの球果
写真2 : 小動物の採食痕
写真3:ヒグマのハイマツ糞、小動物とは異なり丸ごと食べているため、すごい量の殻を含みます
ハイマツの球果もドングリ同様に豊凶年の周期があります。また、球果が落ちると球果痕(写真4)が付くため、過去20年ほどまで遡った球果の豊凶年を調査することができます。そこで、よくハイマツ糞が発見される硫黄山周辺で球果痕の調査を行いました(写真5)。今回の調査結果でも、ハイマツ球果の豊凶年があることを確認することができました。一方で、過去の出没件数が多く(糞にハイマツが殆ど含まれていないと)報告されている年で、凶作とはいえない(平年並みの実りがあったはずの)年がありました。
この不一致の理由として、
・「半島」、「海沿い」という特徴をもつ知床では場所(斜里側や羅臼側、半島先端部や基部側)や標高で豊凶周期が明瞭に異なる
・ヒグマが利用していなかった年は、球果がなっていた(凶作年ではなかった)が、採食前になんらかの要因で落ちてしまった(記録的な暴風雨、病害等)
等が考えられます。そのため、来年にかけて複数地点での調査の実施を行い、ハイマツの豊凶と大量出没の関連性を解明していく予定です。
写真4:〇が球果の付いた跡。20年弱分は実のなった痕跡を追えます
写真5:ハイマツ豊凶の調査の様子
※2019年度から3年間の予定(本年2年目)で、「遺産価値向上に向けた知床半島における大型哺乳類の保全管理手法の開発」と題し、北海道立総合研究機構と北海道大学、知床財団が共同で調査・研究に取り組んでいます。実施にあたっては(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費【4-1905】を活用しています。
(雨谷)