ヒグマの食物資源_③ミズナラの堅果(ドングリ)
ヒグマの食資源について、今回はミズナラの堅果(ドングリ)についてご紹介させていただきます。夏の終わりから秋にかけて、ミズナラの堅果はどんどん大きくなり、栄養価も高くなっていきます。結実すれば、一度に大量の堅果を食べられるため、9月に入るとヒグマはミズナラの堅果に大きく依存するようになります。
ヒグマにとってミズナラの堅果は、脂肪を蓄えるための重要な食物資源ですが、その生産量には年変動があります。つまり、豊作の年もあれば、並作の年もあり、堅果が極端に成らない凶作の年もあるということです。さらに、豊凶が同調する範囲は一様ではないため、結実程度には地域差があることも知られています。そこで、ある地域のミズナラ堅果の成り具合を調べるために行うのが広域的な豊凶調査です。知床財団のヒグマ調査チームは、環境研究総合推進費※による支援を受けて、昨年からミズナラ堅果の豊凶調査を実施しています。これは、研究プロジェクトのサブテーマになっている「ヒグマ大量出没の要因解明に関する研究」の一環で実施されており、ミズナラ堅果の餌資源量の地域差や年変動がヒグマの大量出没にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的としています。
<調査方法>
豊凶調査の方法は様々ですが、双眼鏡を使って枝先についている堅果の数を数える「双眼鏡カウント法」を用いて調査を行っています(写真1,2)。指標木ごとに二人一組で立ち位置を変えながら30秒間のカウントを3回行います(2名で計6回のカウント)。この調査方法にはいくつかのメリットがあります。
写真1.双眼鏡でミズナラの堅果を数えている様子
写真2. 調査に使用した双眼鏡は、カールツァイス株式会社よりご提供いただきました。 とても見やすく、カウント調査に適しています。ありがとうございました。
・簡便で精度の高いデータを得られる(必要な道具は、双眼鏡・タイマー・カウンターだけ)
・堅果が熟す前の比較的早い時期に調査を実施できる。
・少ない人数で調査を実施できる(二人一組)
・調査時間が短い(二人で調査を実施すれば、30秒×3回で一本の木の結実程度が知れる)
・成りが良い、悪いなどの主観ではなく、結実程度を数値として定量化できる。
ミズナラ堅果の結実程度を広域的に把握するために、昨年から知床半島一円(斜里町・羅臼町・標津町)でミズナラの指標木を選び調査を実施しました。2019年は計117本、2020年は計121本のミズナラをカウントしています。
<調査結果>
知床半島の斜里側と羅臼・標津側に分けて集計したものをグラフに示しました(図1)。
斜里側では、2019年は豊作といえるレベル(30秒間に約40個カウント)だったのに対し、2020年は1/4程度にカウント数が低下していました(30秒間に約10個カウント)。一方で、羅臼・標津側のミズナラ堅果のカウント数は2019年と2020年で大きな差はなく、2020年の方が少しミズナラ堅果の成りが良いようです(2019年は30秒間に約13個カウントしているのに対し、2020年は約18個カウント)。2020年のミズナラ堅果の状況をまとめると、斜里側はかなり悪い状況で、羅臼・標津側は斜里側よりは成りが良い結果となりました。参考までに、同一のエリアで撮影した大豊作のミズナラ(2019年撮影)と凶作のミズナラ(2020年撮影)の結実程度の違いを載せてみました(写真3)
写真3.ミズナラ堅果の結実状況(左2019年, 右2020年)
図1.ミズナラ堅果の豊凶調査結果
今後は調査エリアをさらに細分化し、ミズナラ堅果の豊凶の地域差や年変動についてより詳細に分析する予定です。また、ミズナラ堅果の豊凶だけではなく、他の重要な餌資源であるサケマスやハイマツ資源の年変動等とヒグマの出没状況等を合わせて、ヒグマの大量出没について考察を深めて行く予定です。
このようなミズナラ堅果の豊凶の年変動や地域差がヒグマの大量出没にどのような影響を与えるのかについて、他の重要な餌資源であるサケマスやハイマツの餌資源の年変動等とヒグマの出没状況等を合わせて、今後より考察を深めていく予定です。
※本調査・研究は、昨年度(2019年度)から3年間の予定で、「遺産価値向上に向けた知床半島における大型哺乳類の保全管理手法の開発」と題し、北海道立総合研究機構と北海道大学、知床財団が共同で取り組んでいます。実施にあたっては(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費【4-1905】を活用しています。
(梅村)