北海道大学獣医学部の野外実習を行いました【2022年】
今年も2022年8月31日~9 月2日の3日間、北海道大学獣医学部の学生実習を行いました。
北海道大学獣医学部の学生実習では、毎年学生が班ごとに自らテーマを設定しそのテーマに沿って調査研究を行います。
今年のテーマは
1班:『知床の自然とヒグマの食糧事情』
2班:『野生動物の寄生虫感染症』
3班:『知床における野生動物と人の関わり』
となりました。
限られた時間の中で調査から解析、報告までを熱心に取り組んでいる姿が非常に印象的でした。
大学に戻った後はさらに解析を加え、知見を深めたようです。
その結果を含めブログという形で報告させていただきます。
ブログへの投稿は2013年から毎年行っていますので、よろしければ過去の記事もご覧ください。
≪2021年、2020年、2019年、2018年、2017年、2016年、2015年、2014年、2013年≫
以下が、学生の皆さんのレポートです。
※『知床の自然とヒグマの食糧事情』について調べた1班は実習で得られた検体を基に大学で追加の解析を行っています。
追加の解析結果がで揃い次第、1班のブログも公開致します。
~2班『知床の野生動物における寄生虫感染症』~
2班では、知床の野生動物間で寄生虫感染症の感染環が成立しているかを調査するため、野生動物の痕跡位置の記録と、野生動物の糞を用いた虫卵検査を行いました。また、野鼠を捕獲・解剖して、エキノコックス感染の有無も確認しました。
- 虫卵検査と痕跡記録
知床自然センター近くの森林を踏査すると、ヒグマの糞・爪痕・足跡、エゾシカの糞・足跡、キツネの糞を見つけました。また、道の駅など市街地周辺を歩くと、キツネの糞を沢山発見できました。
市街地にある沢の近くでは、タヌキのため糞を1か所見つけました。
見つけた痕跡の位置を他の班のものと合わせて地図に記録すると、下図(赤色: ヒグマ、水色: シカ、紫色: キツネ、オレンジ色: タヌキ)のようにヒグマ、エゾシカの痕跡は森林に多く、タヌキの痕跡は市街地に、キツネの痕跡は市街地から森林部の道路まで広く見られました。
見つけた糞を採取し虫卵検査を行うと、キツネとタヌキの糞から毛細線虫らしき虫卵(写真左)、キツネの糞から猫条虫あるいはエキノコックスらしき虫卵(写真中)、シストイソスポラと考えられる虫卵(写真右)が見つかりました。
タヌキとキツネの糞から同じ虫卵が見つかったことや痕跡位置の重なりから、私たちは知床の野生動物では寄生虫の感染環が成立しており、さらにキツネは市街地にも生息するため、人間やペットにも寄生虫を持ち込む可能性があると考えました。
- 野鼠の捕獲・解剖
ウトロスキー場に、シャーマントラップを仕掛けました(ネズミの捕獲は特別な許可を得て実施しています)。ネズミの気持ちになって、藪の中でネズミが通りそうな場所を狙って設置すると、翌日アカネズミが3匹捕まっていました。
捕獲したネズミには安楽死処置を実施し、その後解剖を行いました。その結果、1匹の肺に白色結節が見つかりましたが、病原の特定には至りませんでした。
今回の実習で、野生動物の間で寄生虫の感染環が成立しているということがわかりました。特にキツネは市街地にも森林にも生息するため、様々な寄生虫感染症を人間やペットにもたらす可能性があります。また、野生齧歯類もエキノコックスに感染している可能性があるため、キツネの糞に触れたり、ペットが野生のネズミを食べたりしないように気を付けましょう。
~3班『知床における野生動物と人の関わり』~
私たちは『野生動物と人の関わり』をテーマに、野生動物の人馴れの程度や観光客の意識を調査するべくフィールドワークとアンケートを行いました。
フィールドワークでは、自然センターから幌別川付近までの道路沿いや林道、林内を歩き、糞や足跡などの痕跡やゴミのポイ捨て状況を調査しました。その結果、道路沿いでキツネ糞が圧倒的に多く、一部シカの足跡やクマ糞が見つかりました。このことから人通りの多い道路沿いまで動物たちが降りてきていることがうかがえます。ゴミについては、タバコの吸い殻が非常に多かったのですが、おにぎりやサンドイッチの包装も見つかりました。これは動物たちが人間の食べ物の味を覚えて近づいてきてしまう原因となる可能性があり危険だと感じました。
アンケートは知床財団の方と知床五湖を訪れていた観光客を対象に実施しました。アンケートの項目は以下の通りです。
・財団の方:どこで野生動物を見ることが多いか。どこでゴミを拾うことが多いか。観光客の方にどのような注意をすることが多いか。
・ 観光客:観光中に野生動物を見たか。その時の様子はどうだったか。(例:車から見た、近づいてきた、など)知床の景観や野生動物を守るために意識していること、知っているルールはあるか。
今回のアンケートでは、50組もの観光客の方に回答をいただくことができました!結果を分析すると、人間に対する警戒心が薄い動物たちが多いことが分かりました。実際に私たちも調査中ヒグマやシカに出会いましたが、逃げる様子は見られませんでした。ただ、多くの方が「餌をやらない」などのルールを認知していること、そのルールは掲示物やレクチャーなどで知った方が多いことが分かり、知床財団の啓蒙活動の効果が実感できました。今回のアンケート結果は今後の啓蒙活動の参考となる重要なデータなので、さらに分析し、私たちでも出来ることを考えたいと思います。
この3日間、たくさんの貴重な経験をすることができました。知床財団の皆様、観光客の方々をはじめ、今回私たちの調査にご協力して下さった皆様、本当にありがとうございました!