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ヒグマの食糧事情:北海道大学獣医学部の野外実習(1班)【2022年】

2022年8月31日~9 月2日の3日間、今年も北海道大学獣医学部の学生実習を行いました。

北海道大学獣医学部の学生実習では、毎年学生が班ごとに自らテーマを設定しそのテーマに沿って調査研究を行います。

 

今年のテーマは

1班:『知床の自然とヒグマの食糧事情』

2班:『野生動物の寄生虫感染症』

3班:『知床における野生動物と人の関わり』

となりました。

 

実習後のラボワークがあったため、1班のブログ公開が最後発となりました。

(2班と3班のブログは、こちらからご覧になれます)

 

以下が、1班の皆さんのレポートです。

 

【ヒグマの食糧事情:北海道大学獣医学部の野外実習(1班)】

 

私たち1班は、糞分析、資源量調査、毛分析の3つの調査を行い、ヒグマの食糧事情を考察しました。

糞分析では、ヒグマの糞を採取し、洗浄・解析することで何を食べているかを具体的に調べました。資源量調査では、ヒグマの八月の主な食物であるハイマツの豊凶を調べ、糞分析の結果との比較を試みました。毛分析では、ヒグマの体毛を採取しDNAによる個体識別と水銀濃度を調べることを試みました。水銀濃度は測定することにより、毛を採取した時期や年齢に応じて、利用した食物資源が明らかになると考えられています。そこから、ヒグマが水産物資源(マスなど)をどのように活用しているかを考察したいと思いました。

 

<糞分析>

 今回の実習では他の班にも協力してもらい、9つのクマ糞を発見し、内容物を確認しました。持ち帰ることが出来た糞はポイントフレーム法で内容物の調査を行いました。ポイントフレーム法とは洗った糞を、方眼の入ったバットの上にばらまき、格子点上に乗っている内容物を数える調査であり、糞内容物の割合を算出することが出来ます。

 

↑ポイントフレーム法

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↑道中発見した糞。草本がみられる。

 

今回調査した八月末は、過去の文献から、主にハイマツを食べていることがわかっています。従って今回もハイマツはかなり多く含まれているだろうと予測しました。また、その他の木の実も結実する時期なので、見つかるのではないかと予想しました。マスはまだ本格的に遡上が始まるには早い時期であるためので、見つからないだろうと予想しました。
 内容物の出現率を算出したところ草本が35%と一番高くなりました。他にもハチ、アリ、ハイマツ、セミ幼虫、ミズナラ、ナナカマド等、多様な食物が観察されました。予想通りマスは見つからなかったのですが、意外にもシウリザクラなどの木の実は少なかったです。

↑記録した糞の各採食物の出現率(N=9)

 

 ポイントフレーム法の調査より重要度指数を算出しました。重要度指数とは食物資源に応じた消化の度合いを考慮し、実際にヒグマが食べている量や栄養を評価した指標になります。結果はハイマツが59%と、圧倒的に高くなりました。次にハチ、草本、ミズナラ、アリが続きました。アリに関しての指数は低くなってしまいましたが、巣材が多く見つかったことから、洗う過程でアリを流してしまい、過小評価してしまったと思われます。従って、昆虫(ハチとアリ)の重要度指数はかなり高いと思われます。

↑ポイントフレーム法に基づく重要度指数(N=5)

 

今回の調査から、本調査を行った8月末は主にハイマツ食べていることが明らかになりました。しかしハイマツだけではなく昆虫、草本と思ったよりも多用な食物を食べている印象を受けました。

 

<資源量調査>
 資源量調査は知床峠付近でハイマツの調査を行いました。ハイマツの藪の中に分け入っていく、ビショビショになりながらのとても大変な作業でしたが、興味深い結果を得ることが出来ました!

↑ハイマツに挑む班員の勇姿

 

ハイマツ34本、2013年から2022年(本年)までの球果数を調査しました。ハイマツは球果が落ちると痕(球果痕)が残るため、これを数えることで豊凶を調べることが出来ます。またハイマツは一年に一節伸びるため、その節の中の球果痕を数えることで過去の豊凶を調べることが出来ます。
また2年かけて実るため、ヒグマの食糧としての豊凶は、データより1年遅れることになります(つまりヒグマの食料としての豊凶は2014年~2023年まで調査したことになる)。2022年(本年)の球果数を数えることで、来年のヒグマが食べるハイマツの豊凶が分かります。ややこしくてすみません。
 結果としては2021年の球果数が49と一番大きく、本年のヒグマが食べるハイマツは豊作であることが分かりました。それに対し2022年に着果した球果数が0.5となりました。0.5としたのは来年実るはずの球果がすでに落ちた痕が見つかったためです。つまり今回調査したハイマツでは来年実る球果は0ということになります。来年は近年見ることのない大凶作であることが予想されました。
重要度指数がとても高かったハイマツが来年ガクッと少なくなるので、来年のヒグマはかなりひもじい思いをすると思います。ヒグマがえさを求めて町に出没するなどの問題が起きないことを願っています。

↑一年補正した、ヒグマの食糧としてのハイマツの豊凶。

 

 

<毛分析>
 ヘアトラップの回収作業に同行させていただき、21サンプルを回収しました。ヘアトラップとはヒグマが木に背をこする習性を利用して、枯死木に針金を巻き付けて毛をいただくトラップになります。ヒグマは別に痛くはないそうです。

↑ヘアトラップで採取したヒグマの体毛

 

 

設置されたカメラにはオス、メス、亜成獣、幼獣など計5匹のヒグマが映っていました。オスは立ち上がって背こすりをしている様子が見られました。
 遺伝子解析による個体識別を行ったところ、3頭を識別することができ、大型のオスの成獣、小型のオスの成獣、メスの成獣とわかりました。大型のオスの成獣に関しては、一番高いところからも毛が取れたので、カメラに写っていた通り、立ち上がって背こすりしたことが分かりました。

 

↑成獣のオスと思われる個体

 

今回の調査では、毛から水銀濃度も測る予定だったのですが、水銀測定器側の都合で水銀濃度を測れなくなってしまい、結果は個体識別のみとなってしまいました。残念です。予定ではいつ生えた毛かを鑑別して、前年に生えた毛(マスを食っている)では水銀濃度が高く、今年生えた毛(まだマスを食っていない)では水銀濃度が低いといった結果を予想していました。ぜひ来年の実習でも調べてみてほしいです!!

 

また、作業中にヒグマの姿を見ることができました。とてもビックリしました。会いたいと思っていましたが、いざ遭遇すると、あたふたとして大変でした。

知床財団の方のお力をお借りしなければできない調査ばかりで、とても楽しかったです!!

ありがとうございました。

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